はじめに

短時間労働者の社会保険加入が段階的に拡大される中、「手取りが減るなら働く時間を抑えたい」という従業員の声に対応する必要が生じています。

こうした「働き控え」を緩和するために新設されるのが「保険料調整制度」です。本コラムでは、日本年金機構「保険料調整制度のご案内」(更新日:2026年4月1日)をもとに、制度の概要と対象者について解説します。

保険料調整制度とは?(概要)

通常、健康保険や厚生年金保険の保険料は「労使折半(50%ずつ)」ですが、この制度を利用すると、対象となる従業員の保険料負担を通算3年間軽減できます。具体的には、従業員の負担分の一部を事業主が一時的に肩代わりする仕組みです。

一定期間経過後に事業主の追加負担分は調整されるため、最終的に事業主が納付する保険料は増えないとされています。また、従業員が将来受け取る年金額にも影響はないとされています。

事業主が先行して立替える保険料は、一定期間後に調整(精算)される予定です。ただし、調整の具体的なスキームには現時点で未確定な部分もあるため、軽減期間中の資金繰りへの影響も踏まえて活用を検討することをお勧めします。

軽減のイメージ(標準報酬月額88,000円の場合)

区分 本来の保険料 制度利用時(1・2年目)
被保険者(従業員) 月額 12,500円 月額 6,250円
事業主 月額 12,500円 月額 18,750円(12,500円+6,250円)

※事業主が追加負担した6,250円は、一定期間経過後に調整されます。
※上記はイメージであり、実際の額とは異なります。
(出所:日本年金機構「保険料調整制度のご案内」1.概要)

対象となる事業所と従業員は?

■ 対象となる事業所

  • 令和8年(2026年)10月1日以降に「任意特定適用事業所」になった事業所
    ※令和8年(2026年)9月30日以前に任意特定適用事業所となった事業所は対象外です。
  • 令和9年(2027年)10月1日以降の短時間労働者に対する適用拡大により、短時間労働者が新たに加入対象となる事業所

適用拡大の段階スケジュールは以下のとおりです。

適用開始時期 対象となる事業所(厚生年金保険の被保険者数)
令和9年10月 36人以上50人以下
令和11年10月 21人以上35人以下
令和14年10月 11人以上20人以下
令和17年10月 10人以下

■ 対象となる被保険者(従業員)

以下の(1)および(2)の両方を満たす方が対象です。

  1. 短時間労働者として健康保険・厚生年金保険に加入する被保険者
  2. 標準報酬月額が126,000円以下の被保険者

(出所:日本年金機構「保険料調整制度のご案内」2.対象となる事業所/3.対象となる被保険者)

本制度の対象は「短時間労働者かつ標準報酬月額126,000円以下」に限定されます。これを超える給与の従業員やフルタイム従業員には適用されないため、社内で不公平感が生じないよう、制度導入の目的を丁寧に説明することが求められます。

「うちの事業所は対象になる?」「いつから手続きが必要?」
個別のご状況に合わせた確認は、専門家への相談をお勧めします。

お問い合わせはこちら

従業員の負担はどれくらい変わる?

軽減割合は、対象となる従業員の標準報酬月額に応じて異なります。また、制度利用3年目は軽減割合が半減し、3年が経過した時点で軽減は終了します(通常の労使折半に戻ります)。

表の見方:「被保険者:事業主」の割合を示しています(合計100)。

標準報酬月額 報酬月額 1・2年目
(被:事)
3年目
(被:事)
4年目以降
(被:事)
88,000円以下 93,000円未満 25:75 37.5:62.5 50:50
98,000円 93,000円~101,000円未満 30:70 40:60 50:50
104,000円 101,000円~107,000円未満 36:64 43:57 50:50
110,000円 107,000円~114,000円未満 41:59 45.5:54.5 50:50
118,000円 114,000円~122,000円未満 45:55 47.5:52.5 50:50
126,000円 122,000円~130,000円未満 48:52 49:51 50:50

給与水準が低い従業員ほど軽減幅が大きく、3年目に軽減割合が半減した後、4年目(3年経過後)からは通常の折半(50:50)に戻ります。社会保険加入に伴う手取り額の変化を段階的に緩和する仕組みです。

(出所:日本年金機構「保険料調整制度のご案内」4.保険料の負担割合)

手続きの注意点

制度を利用するためには、事業所が保険料調整制度の対象となった日から「2年以内」に、事業主からの申し出(申請)が必要です。自動的には適用されないため、期限切れには注意が必要です。

申請期限(2年以内)を過ぎると権利が消滅します。対象となるタイミング(令和8年10月または令和9年10月以降)での手続き漏れがないよう、あらかじめ確認・準備しておくことをお勧めします。
届書様式や手続きの詳細は、厚生労働省から示され次第、日本年金機構ホームページに掲載予定です。最新情報は日本年金機構公式サイト(保険料調整制度のご案内)でご確認ください。
(出所:日本年金機構「保険料調整制度のご案内」5.手続き)

実務上の留意点

本制度を導入・運用するにあたり、以下の4点に留意してください。

1. 軽減期間中のキャッシュフローへの影響

軽減期間中は法定割合(50%)を超える保険料を事業主が先行して納付(立替)することになります。事後的な調整の具体的なスキームには未確定な部分もあるため、一時的な資金繰りへの影響を考慮したうえで活用を判断することをお勧めします。

2. 制度が3年間の時限措置であることの説明

3年経過後は通常の労使折半に戻るため、従業員の手取りは変化します。導入時に「3年間の時限的な激変緩和措置であること」を、雇用契約時や制度説明時に書面で明示しておくことが、後のトラブル防止につながります。

3. 申請期限の管理

対象となった日から2年以内に申し出を行わないと権利が消滅します。対象となるタイミングをあらかじめカレンダー等で管理し、社内で周知しておくことをお勧めします。

4. 対象外従業員への配慮

本制度は「短時間労働者かつ標準報酬月額126,000円以下」に限定されます。フルタイム従業員や要件を超える従業員には適用されないため、制度導入の目的・背景を社内でわかりやすく説明することが求められます。

まとめ

保険料調整制度の主なポイントを整理します。

  • 短時間労働者の社会保険加入に伴う手取り変化を通算3年間段階的に緩和できる制度
  • 対象は「令和8年10月以降の任意特定適用事業所」または「令和9年10月以降の適用拡大対象事業所」
  • 被保険者は「短時間労働者かつ標準報酬月額126,000円以下」が対象
  • 事業主は対象となった日から2年以内に申請が必要(自動適用ではない)
  • 3年後に通常の折半に戻ることを、従業員へ事前に説明・書面で明示することが重要

届書様式や詳細な手続きは今後公表される予定です。「自社の対応方針を整理したい」「制度説明の書類を整備したい」という方は、お気軽にご相談ください。

免責事項:本コラムは2026年4月時点の公表情報(日本年金機構「保険料調整制度のご案内」)に基づき作成しています。届書様式・手続き詳細など今後公表される情報により、内容が変更される場合があります。また、軽減期間中の事業主追加負担分の調整スキームには現時点で未確定な部分もあります。個別具体的なご相談は、今井久一郎 社会保険労務士事務所(CSI&LC IMAI)までお問い合わせください。