「うちはまだ数人の規模だから就業規則は必要ない」──そう考える経営者様は少なくありません。しかし、近年の労務トラブルの増加や法改正への対応、各種助成金の活用を考えると、10人未満の段階から就業規則を整備しておくことには大きな実務上のメリットがあります。

1. 法律上の義務と「10人」のカウント方法

まず、法律上の原則的なルールを確認します。労働基準法第89条により、常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、行政官庁(労働基準監督署)に届け出なければならないと定められています。違反した場合、労働基準法第120条に基づき30万円以下の罰金が科される可能性があります。

⚠️「常時10人」の正しいカウント方法

⚠️ 注意:「10人」のカウントは正社員だけではありません

この「10人」には、正社員だけでなく、パートタイマー・アルバイト・契約社員など、事業場で働くすべての労働者が含まれます。交代制などで毎日出勤しない従業員でも、常態として雇用しているなら1人としてカウントされます。

「常時」= 常態として、という意味であり、一時的な増減で判断するものではありません。

正社員が5人でもパート・アルバイトが5人いれば、合計10人となり作成・届出義務が発生します。下記の2つのケースを対比して理解しておきましょう。

✕ 義務が発生しない例
いつもは8人の事業所が繁忙期に臨時で3人を追加採用し、合計11人になっても、「常態」ではないため作成・届出義務は発生しません
✓ 義務が継続する例
いつもは10人で運営している会社から退職者が出て一時的に9人になっても、すぐに代替採用する予定であれば、「常時10人以上」として義務は続きます

「事業場ごと」に判断する点に注意

就業規則の10人要件と届出は、会社単位ではなく「事業場(拠点)単位」で判断します。

例:「本社は12人だが、各支店は5人ずつ」という場合、義務が発生するのは本社のみです。本社・支店など複数の事業場がある場合は、原則としてそれぞれの事業場ごとに管轄の労働基準監督署へ届け出ます。ただし、就業規則の内容が同一であれば、本社で一括して届け出ることも可能です。

2. 10人未満でも就業規則を整備すべき3つの実務上の理由

法的な義務がない規模の企業であっても、早期に就業規則を整備すべき理由は主に以下の3点です。

① 労務トラブル発生時のリスク回避と深刻化の防止

就業規則は、会社と従業員の間で問題が生じた際の「統一的な判断基準(会社のルール)」となります。問題行動のある従業員への指導や懲戒処分、あるいは休職・復職をめぐるトラブルが発生した際、就業規則に明確な根拠規定がなければ、会社側が適正な対応を取ることが法的に困難になります。

口頭での約束や慣行だけでは客観的な証明が難しく、トラブルが長期化・深刻化する原因となります。

② 厚生労働省管轄の「助成金」の受給要件を満たすため

中小企業が活用できる各種助成金(キャリアアップ助成金や両立支援等助成金など)の多くは、「就業規則または労働基準法に準じる社内規定に定めていること」が支給の絶対条件となっています。

助成金の申請を検討する段階になってから慌てて作成しても、過去に遡って適用することは原則として認められません。事前の適切な規定整備が、受給の前提となります。

③ 企業の信頼性向上と採用活動への寄与

求職者や従業員に対して明確な労働条件や服務規律を提示することは、企業のコンプライアンス(法令遵守)姿勢を示すことにつながります。安心して働ける環境を整えることで、優秀な人材の獲得や定着にも好影響を与えます。

「助成金の受給要件を満たしているか確認したい」「就業規則の内容を診断してほしい」という場合は、専門家への相談が確実です。

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3. 就業規則を作成する際の具体的な4つのステップ

就業規則の作成は、以下の流れに沿って計画的に進めます。

1

現状の労働条件と実務の把握

自社の現在の始業・終業時刻、休憩時間、休日、賃金制度(手当の内訳や計算方法)、退職に関するルールなどの実態を正確に洗い出します。

2

規定内容の検討とドラフト作成

労働基準法などの法令に合致しているかを確認しながら、具体的な条文を作成します。

  • 厚生労働省が公表している「モデル就業規則」を参考にする場合も、自社の実態に合わない規定(自社にない手当や退職金制度など)をそのまま残すと、予期せぬ法的義務を負うことになります。
  • 必ず自社の状況に合わせてカスタマイズしてください。
3

従業員からの意見聴取(労基法第90条)

就業規則の作成・変更にあたっては、従業員の過半数で組織する労働組合(ない場合は従業員の過半数を代表する者)の意見を聴く必要があります。

  • これは「同意を得る」義務ではなく、「意見を聴く」義務です。
  • 仮に反対意見が出ても、その意見書を添付すれば届出は受理されます。
  • ただし、従業員の納得を得ておくことは、円滑な運用とトラブル防止の観点から非常に重要です。
4

従業員への周知と労働基準監督署への届出

周知(労働基準法第106条)
完成した就業規則は、従業員がいつでも確認できる状態(事業場の見やすい場所への掲示・備え付け、書面の交付、共有サーバーへの保存など)にして初めて有効となります。判例上も、周知は就業規則が効力を生じるための前提要件と考えられています。

届出(常時10人以上の場合)
常時10人以上の規模に達している場合は、ステップ3で作成した過半数代表者の意見書を添付し、所轄の労働基準監督署へ速やかに届け出ます。窓口持参・郵送のほか、政府の電子申請システム(e-Gov)でも行えます。

  • 10人未満の企業が任意で届け出ることも可能です。

まとめ:自社に適したルール作りのために

就業規則は、単に法律の義務を果たすための書類ではなく、会社を守り、従業員が安心して働くための基盤となる経営ツールです。形だけの雛形を導入するのではなく、企業の規模や実態、今後の成長予測に合わせた現実的なルール設計を行うことが、実務上極めて重要です。

規模 法的義務 実務上の推奨
常時10人以上 作成・届出が義務(違反で30万円以下の罰金) 最新の法改正に対応した内容で整備
常時10人未満 作成・届出は任意 助成金・採用・トラブル防止の観点から早期整備を推奨
  • 「10人」には正社員だけでなくパート・アルバイト・契約社員も含まれる
  • 10人要件と届出は「会社単位」ではなく「事業場単位」で判断する
  • 10人未満でも助成金受給要件・労務トラブル防止・採用力向上の観点から早期整備が有利
  • 意見聴取は「同意」ではなく「意見を聴く」義務であり、反対意見でも届出は受理される
  • 就業規則は「作成するだけ」でなく「周知して初めて有効」となる

「自社の現状に合わせた就業規則をゼロから構築したい」「現在の規定が最新の法改正に対応しているか診断してほしい」という経営者様は、どうぞお気軽に当事務所までご相談ください。

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