【導入】社会保険手続の「紙と窓口」を見直す
入社・退職の手続や、毎年の算定基礎届の時期に、次のような負担を感じていないでしょうか。
- 年金事務所やハローワークの窓口へ出向き、順番待ちで時間を取られる
- 申請書類を印刷して押印し、郵送する手間と費用がかかる
- 書類に不備があった場合、再度の訪問や郵送のやり取りが発生する
こうした手続の負担を軽くする方法のひとつが、e-Gov(イーガブ)による電子申請です。
e-Gov電子申請の利用可能時間について、e-Govは「原則として、24時間365日利用可能です。ただし、システム保守等により、一時的に利用を制限する場合があります」としています。窓口へ出向く必要がなくなり、郵送費や印刷費も抑えられます。ただし、行政機関側の審査そのものは開庁時間内に行われるため、送信した時刻がそのまま処理開始時刻になるわけではない点は理解しておきましょう。
電子申請を始めるうえで最初の入口となるのが「GビズID」です。本記事では、GビズIDの取得方法、2026年に行われた重要な変更、そしてe-Govの初期設定までを、公的機関が公表している情報に基づいて整理します。
【章1】電子申請の入口となる「GビズID」
1. GビズIDとは
GビズIDは、デジタル庁が運営する、事業者向けの共通認証システムです。日本年金機構は「電子申請にご利用頂ける『GビズID』とは、1つのアカウントで複数の行政サービスにアクセスできる認証システムです」と説明しており、アカウントの取得・利用は無料です。
GビズIDで利用できる行政サービスは、GビズID公式サイトの「GビズIDで利用できる行政サービス一覧(省庁・自治体)」に掲載されています。利用したいサービスが対象かどうかは、こちらで確認してください。
2. アカウントの種類
| 種類 | 概要 | 発行方法 |
|---|---|---|
| GビズIDプライム | 法人代表者または個人事業主のアカウント | オンライン申請(最短即日)または書類申請 |
| GビズIDメンバー | 組織に所属する従業員用のアカウント。プライム取得者が自身のマイページで作成 | プライムアカウントから発行 |
| GビズIDエントリー | 審査を行わずオンラインで発行されるアカウント | 即日 |
3. 手続によって使えるアカウントが異なります
ここは実務で混乱しやすい重要なポイントです。
社会保険(健康保険・厚生年金保険)の手続
日本年金機構は「『GビズID』には2種類のアカウントがありますが、社会保険の手続きには、『GビズIDプライム』のアカウントが必要です」と明記しています。
労働保険関係の手続
厚生労働省は「労働保険関係手続では、『gBizIDプライム』と『gBizIDメンバー』のアカウントの利用で電子証明書の添付なしで手続可能です」としています。ただし同省は、事業主の代理人がgBizIDメンバーで電子申請を行う場合、事前に「労働保険代理人選任・解任届」の提出が必要であるとしています。
4. 社会保険労務士が提出代行を行う場合
日本年金機構は、社会保険労務士がGビズIDを利用して提出代行を行う場合、GビズIDの「会社部署名/部署名」欄に「@+社会保険労務士登録番号」を入力する必要があるとしています。登録番号が「12345678」であれば「@12345678」と入力します。
【章2】GビズIDプライムの取得
GビズIDプライムの取得方法は、オンライン申請と書類申請の2通りです。
代表者本人のマイナンバーカード+
GビズIDアプリ(スマートフォン)で手続完結 最短即日発行
登録申請書+印鑑(登録)証明書(原本)を
GビズID運用センターへ郵送 最大1か月
1. オンライン申請(マイナンバーカードを利用)
GビズID公式サイトは「マイナンバーカードをご用意いただくことで、最短で即日にアカウントを発行できるオンライン申請もご利用いただけます。オンライン申請では、手続き全体をオンラインで完結できるため、書類の印刷や郵送などの手間が省けます」としています。
オンライン申請には、代表者本人のマイナンバーカードと、GビズIDアプリをインストールしたスマートフォンが必要です。
2. 書類申請(郵送)
マイナンバーカードをお持ちでない場合は、登録申請書に印鑑(登録)証明書を添えて、GビズID運用センターへ郵送します。
さらに、申請内容に不備があった場合の取扱いも変更されています。GビズID公式サイトは「申請内容に不備があった場合、提出書類の返送は行われません。GビズIDマイページおよび登録されているメールアドレス宛に不備内容が通知されます」としています。
補助金の公募締切や、社会保険手続の期限が迫っている場合、書類申請では間に合わない可能性があります。 早めの取得をおすすめします。
3. 書類申請に必要なもの
- 登録申請書(GビズID公式サイトで作成・印刷)
- 発行から3か月以内の印鑑(登録)証明書の原本
- 登録印(法人は法人実印、個人事業主は個人実印)
商号・所在地・代表者氏名は、登記および印鑑証明書の記載どおりに入力してください。記載内容の不一致は、審査が滞る原因になります。
GビズIDの取得方法や電子申請の開始について、ご不明な点はお気軽にご相談ください。
無料相談のお問い合わせはこちら【章3】2026年の重要な変更点
2026年に入ってから、GビズIDの運用に実務上見過ごせない変更が行われています。すでにアカウントをお持ちの事業者も確認が必要です。
→ GビズIDアプリ認証 または メールワンタイムパスワード認証 に変更
導入日前のアカウントは2026年7月9日を起算日として適用
1. アカウント有効期限の新設(2026年7月9日〜)
GビズID公式サイトの「よくある質問」には、次のとおり記載されています。
GビズIDプライムおよびGビズIDメンバーのアカウントには有効期限があります。有効期間は、アカウント発行日より2年3か月です。なお、有効期限の導入日(2026年7月9日)より前に発行されたアカウントについては、導入日を起算日として有効期限が設定されます。
- 対象:GビズIDプライム、GビズIDメンバー(GビズIDエントリーは対象外)
- 有効期間:発行日から2年3か月
- 確認方法:GビズIDにログイン後のマイページ
- 期限が切れた場合:行政サービスへのログインなど、一部の操作が利用できなくなります
導入日前に取得したアカウントは2026年7月9日が起算日となるため、初回の期限はおおむね2028年10月ごろとなります。申請期限の直前に期限切れが判明すると手続が間に合わなくなるおそれがあるため、マイページで自社の有効期限を一度確認しておくことをおすすめします。
2. ログイン時の認証方式の変更(2025年12月17日〜)
e-Gov電子申請は、2025年12月19日付のお知らせで次のとおり案内しています。
GビズIDによるログイン時の認証方式について、事前にお知らせのとおり、12月17日からSMSを用いたワンタイムパスワード認証方式が廃止されましたのでお知らせいたします。また、それに伴い、従来のGビズIDアプリによる認証方式に加え、メールを用いたワンタイムパスワード認証方式が利用可能となっております。
ログイン時の二要素認証は、GビズIDアプリによる認証またはメールワンタイムパスワード認証を利用します。GビズID公式サイトの「よくある質問」によれば、両方を設定している場合、ログイン時にどちらの認証方式を使用するかを選択できます。
【章4】e-Govの利用準備
GビズIDを取得したら、e-Gov側の準備を行います。e-Gov公式サイト「利用準備」に沿って進めます。
e-Govアカウントの
別途作成は不要
ブロックを解除
アプリをインストール
管理者権限が必要
してe-Govにログイン
1. アカウントの準備
e-Govは「e-Govアカウントの登録をするか、GビズID、または他認証サービスのアカウントが利用できます」としています。利用できるのは、e-Govアカウント、GビズID、Microsoftアカウントです。
GビズIDをお持ちであれば、e-Govアカウントを別途作成する必要はありません。 e-Govのログイン画面からGビズIDを選択してログインします。
2. 電子証明書の要否
e-Govは、社会保険関係手続・雇用保険関係手続・労働保険関係手続について「これら手続の電子申請には、電子証明書が必要です」としたうえで、次の注記を付しています。
gBizIDプライム、gBizIDメンバーの場合、原則として電子申請対象手続所管行政機関の指定により、電子署名を省略できることがあります。
つまり、GビズIDを利用する場合は、電子証明書を取得しなくても手続ができる場合がある、という位置づけです。「GビズIDを使うと電子署名が付く」わけではない点にご注意ください。
3. ブラウザの設定
e-Govは、ブラウザのポップアップブロックを解除するよう案内しています。「ブロックが有効のまま利用すると、正しく画面が表示されない場合があります」とされています。
4. e-Gov電子申請アプリケーションのインストール
e-Govの利用にはe-Gov電子申請アプリケーションのインストールが必要で、Windows版とmacOS版が用意されています。e-Govは「なお、インストールには、管理者アカウントが必要です」としています。社内PCに管理者権限がない場合は、情報システム担当者への依頼が必要になります。
なお、e-Govは、厚生労働省が所管する一部手続についてmacOS端末から申請ができない旨を案内しています。macOSをご利用の場合は、対象手続を事前にご確認ください。
【章5】最初に取り組む手続と申請後の流れ
1. まず試したい手続
日本年金機構は、e-Gov電子申請で申請可能な届書として、資格取得届、資格喪失届、算定基礎届、月額変更届、賞与支払届、被扶養者(異動)届、国民年金第3号被保険者関係届を含む約80種類を挙げています。
最初は、発生頻度が高く入力項目の少ない手続から始めるのが取り組みやすい方法です。
- 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
- 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届
- 雇用保険 被保険者資格取得届・資格喪失届
日本年金機構は、資格取得届、資格喪失届、被扶養者(異動)届、算定基礎届について、e-Gov電子申請の入力例を公開しています。初回はこれを参照しながら進めると確認しやすくなります。
2. 件数が多い場合の選択肢
日本年金機構は、届書を簡易に作成・申請できる「届書作成プログラム」を無料で公開しています。同プログラムで申請可能な届書は、資格取得届、資格喪失届、算定基礎届、月額変更届、賞与支払届、被扶養者(異動)届、国民年金第3号被保険者関係届です。
対象者が多い場合は、CSVデータを用いた申請方法もあります。詳細は日本年金機構の「CSVファイル添付方式により申請できる届書について」をご確認ください。
3. 申請後の確認と公文書の受取
申請データを送信した後は、e-Govのマイページで処理状況を確認します。審査が完了すると、決定通知書などの公文書を電子的に受け取ることができます。
記入漏れや不備があった場合は、修正のうえ再送信する流れとなり、書類を郵送し直す必要はありません。
受け取った電子公文書は、社内で保存場所とアクセス権限を定めたうえで保管しましょう。
【まとめ】電子申請は労務DXの入口
社会保険の電子申請は、GビズIDを取得し、e-Govの利用準備を整えることから始まります。手順そのものは公表されており、順を追って進められる内容です。
一方で、2026年にはアカウント有効期限の新設や認証方式の変更が行われており、一度設定して終わりではなく、定期的な確認が必要な仕組みになっています。 特に有効期限は、期限切れに気づかないまま手続の時期を迎えるリスクがあるため、担当者間で管理方法を決めておくことをおすすめします。
電子申請に慣れてきた段階では、API連携に対応した人事労務ソフトを利用し、給与計算から社会保険手続までのデータ連携を検討する余地も出てきます。まずは、GビズIDのマイページで自社のアカウント状況を確認するところから始めてみてください。
当事務所では、GビズIDの取得から電子申請の運用設計、労務システムとの連携まで、実務に即したご支援を行っています。 ご不明な点はお気軽にお問い合わせください。
本記事は2026年8月12日時点で公表されている情報に基づいて作成しています。制度・運用は変更される場合がありますので、実際の手続にあたっては各公式サイトの最新情報をご確認ください。